私は「虹の写真を見せてくれた人」になった
週一で通っている駄菓子屋というか文房具屋が近所にある。
お母さん1人で切り盛りしている小さなお店。
時間帯によっては小学生がひっきりなしに小銭を握りしめ入店、退店をくりかえす。
「30円が2個で10円が1個で何円だ?」
お母さんがそう問うと、すぐに正解を出す子もいれば、悩む子もいる。
算数の課外授業。
キャッシュレスではない風景が広がっている。
そんな店に週一通っては、その日の天気の話だったり、
「最近、娘さん元気?」
などと話を振られ、娘の近況、ハンドボールの話をする。
そんなお母さんのお店は私にとっての近所のコミュニケーションスポット。
先週、テスト期間中で勉強の合間の娘がキャッチボールに付き合えというので、夕方、まだ陽が落ち切ってない時間にキャッチボールをした。
その帰り道、お母さんの店に行く用事があったので、娘に付き合わせた。
娘は小学生の頃、よく駄菓子を買いに行っていたので顔馴染みである。
とはいえ、早いもので高校生。久しくお店には行ってない。
「あら〜、お嬢ちゃん、大きくなって。でも、ハンドボールやってる割には細いわね」
お店に入ると、お母さんが開口一番こう言った。
久しぶりで娘もなんだか嬉しそうに話をしていると、
「長い間、お世話になりました」
と、お母さんが一礼し、レジ奥の張り紙を指差す。
そこには、
11月30日で閉店いたします。
の文字が。。。
「え!?2日後じゃん!随分急だね!なんだか寂しいよ」
と私が言うと、
「私が一番寂しいよ」
とお母さん。
聞いたことはないけれど、お母さんは結構な年齢だから、色々あるのかなぁ、と思いつつ、他のお客さんもいるので、なんで辞めるの?とは聞けずに、長い間、お疲れ様でした、と退店。
帰り道。
「辞めちゃうんだ、寂しいね。友達誘って行こうかな」
と娘。
やっぱり寂しいよねぇ。
帰宅後、カミさんに伝えると、驚き、寂しがる。
お店が閉店する日、再度、カミさんと手土産持って、お疲れ様でしたを伝えに行った。
世間話をしていると、お母さんが
「ちょっと」
と奥の部屋に声をかけた。
「いつも、母がお世話になっています」
とお母さんの娘さんが登場。私史上初登場。
「ほら、虹の写真を見せてくれたお客さん」
と、お母さんが私を指さして言う。
数週間前の雨上がり。
散歩をしていたら、目の前に虹がかかった。
思わずスマホでパシャリ。
散歩の帰りにお母さんの店に立ち寄って、雨上がったねぇと話の流れで、
「今、散歩してたんだけど、虹が出てたよ」と先ほど撮った写真をお母さんに見せると。
「うわぁ!綺麗だねぇ!どこで撮ったの?綺麗だねぇ!」
と、大変喜んでくれたことがあった。
お母さんは、家で私のことを話題にしてくれたんだ。
そんなことを思うと、15,6年通ったお店が今日で終わってしまうことが寂しくてならなかった。
お母さんのお店が閉店する日、私は「虹の写真を見せてくれた人」になった。
やっぱり、やりたいことはやりたいときにやらないと、物事には、いずれ終わりがくるんだなぁと思いながら宣伝。
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