深夜、下北沢の一室で、初めての…

2022/12/19

下北沢で飲むことが多かった学生時代。だいたい楽しく朝まで飲んで、〆にラーメン食べて、昼過ぎに起きて、食べなきゃ良かったと後悔。食べなければ後悔もしないのに何故か食べちゃう不思議なラーメン。
まぁ、学生時代の飲みなんて、ほとんど楽しい。
でも、この日は少し憂鬱だった。
友人のポンと2人で、これまた女友達のヒカリとマフユの2人とで飲むことになっていたのだ。
平たく言うと「友達4人で飲みに行く」というだけなのだけれども、この日は違った。

「4人で近々飲みに行きたいんだけど予定組んでくれない?」
とメールが来たのはひと月前だっただろうか。
改まって飲みの予定を立てるなんて、この面子ではない。
「○日に△△△のライブがあるんだけど行かない?」
みたいな感じで、下北沢でバンドのライブを観に行って、その後、暗黙の了解で飲みに行く、というのが常だ。
わざわざ飲みだけの約束っていうのは、ちょっと違和感を感じた。何か理由があるな、、、と。

「実は、マフユがポンのことが好きで付き合いたいんだけど、いまいちポンの反応が読めないらしくて。。。」
ああ、面倒くさい。
ポンの気持ちはわからない。
この手の話は関わりたくないし、勝手にやって欲しい。
でも、聞いてしまった。
ポンに「マフユがお前のこと好きなんだって。どうする?」と聞くのは簡単だ。
でも、聞いたら最後、ポンとマフユの間に直接入ってしまうことになる。
上手くいってもいかなくても、なんか面倒くさそうだ。

「う〜ん、わかった。飲み会セットするだけなら良いよ。俺はマフユの気持ちは知らない体で。ただ飲むだけ」
「うん。それでいいよ!連れて来てもらえれば、あとは私が何とかするから」

何とかなるのか?なんだかポンを罠にはめてる感はあるが、まぁ、いい。
飲み会が終わった帰りに「実はね、、、」と話をすればわかってくれるだろう

飲み会当日、ある時間になると客全員で感知残りじゃんけん大会が行われ、勝利するとそれまでの料金がタダになるお店で飲み、なんとマフユが勝利!貧乏学生にはありがたい展開。
その店でさらに飲み、結構酔っ払った頃には終電なし。
2軒目に行って朝までやり過ごそうと歩いていると、急にヒカリが焦った様子で話かけてきた。

「ちょっとポンは?いないんだけど」

後ろについてきていると思っていたポンの姿がない。

「トイレにでも行ってるんじゃない?」
「トイレだったらお店で行けば良いでしょ?」
ケータイに電話しても繋がらない。
「終電もないからそこら辺にいるんじゃない?」
と呑気に答えると
「私、探してくる」
ポンが酔っ払ってるから心配なのか、マフユの気持ちを思ってか、ヒカリはポンを探しに走って行ってしまった。

マフユと2人、取り残された。
「ねぇ、ちょっとついてきて」
歩き出したマフユの後ろを素直についていった。

ちょっと古めかしいアパートの前でマフユは止まった。
「ここ私の家。入って」
部屋に通される。
部屋といっても古いタイプの1K。
玄関のすぐそばに台所、その横に冷蔵庫、台所の対面にバストイレ、そこを抜けると部屋。

ポンのことを好きなマフユと部屋にふたりきり。
とても不思議な気分。
割と綺麗にしてある部屋。中央にちゃぶ台がある。
上座の方に座るよう促される。

「日本酒好きだったよね、ちょっと待ってて」
「ヒカリは待たなくていいの?ポンを探しに行ったけど」
「みんなで探してもバラバラになるだけじゃない。家にいるから見つかったら連絡してって伝えてあるから大丈夫」
ポンのことを好きなはずのマフユが家で待っていて、仲を取り持とうとしているヒカリが探しに行っている。
ドラマだったらマフユが探しに行って、ポンを見つけ、
「心配したのよ!」
とかいって、流れで告白、みたいな展開なんじゃないの?と酔った頭で考えていると、ちゃぶ台に浦霞の大吟醸とイクラが置かれた。
「実家から送られてきたの。良かったら食べて」
マフユは北国出身だった。
大吟醸とぷりっぷりのイクラ。
さっきまで飲んでいた、じゃんけん大会が行われるような安居酒屋ではお目にかかれない酒とツマミ。このタイミングでマフユは何を考えているのだろう。
まぁ、いい。ありがたく頂こう。

浦霞の大吟醸をひとくち。おお、すっきり辛口。
「すごい美味しいね、これ」
と言って飲み干すと、マフユが言った。

「私、ポンのことが好きなの」

完全に聞いてしまった。マフユの想いを。
一杯飲み干したところでのこの告白。
”お前、その酒飲んだよな”と言わんばかりの間。

「だから、協力して欲しい。いつもポンと一緒にいるでしょ?遊びも学校も」

そういうのが面倒くさいんだって。そう思いながら浦霞を飲む。

「ほら、イクラも食べて。お母さんが作ったんだから」
「う、うん」

確かに美味しい。日本酒とイクラ。バッチリな相性。
しかし、バクバク食べる訳にもいかない、ゴクゴク飲む訳にもいかない。
飲むほどに、食べるほどに、マフユは協力を求めてくる。。。
マフユのポンへの想いを延々と聞きながら、箸の動きも杯の進みも遅くなっていった。
1時間半後、ヒカリからポンを見つけたとの連絡が入った。
助かった。
カピカピになったイクラにはなんだか申し訳ない気持ちになった。マフユのお母さんにも美味しく食べれずすみません、と心の中で謝った。

ポンは眠たくなって公園のベンチで寝ていたそうだ。
2軒目では一眠りして元気になったポンは楽しそうに飲んでいた。
それを見てマフユも楽しそうに飲んでいた。ヒカリはホッとしていた。
一方こちらはクタクタだ。
疲れた頭で、マフユの部屋でのことを考えた。
上等な酒とぷりっぷりのイクラ。ああ、あれは彼女なりの接待だったんだ、きっと。
人生初の接待。接待とはこういうものなのだろうかと思った。

しばらくして、ポンとマフユは付き合った。
ポンもまんざらではなかったらしい。
マフユからは感謝のメールが多数届いた。
正直、何もしてないんだが。。。。。

付き合ってから1ヶ月も経たずに、2人は別れた。
2人の問題なので、詳しくは聞かなかったが、ポン的にマフユについて行けなかったそうだ。

ポンから別れの報告を聞いた次の日、マフユからメールがきた。
ポンと別れたことの報告と、協力してもらったのに長続きしなくてごめんなさい、とのことだった。
報告と謝罪。
協力といわれても、本当に何もしていない。

1枚の添付写真があった。
開いてみると、マフユが全裸でブリッジしている写真だった。
文面に「ごめんなさい」とあるのに、この写真、土下座の真逆だ。。。

戯れ言下北沢

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