高級お宿の取材の話 天城越え

全国の高級お宿を取材する

という企画の映像仕事をしていた時のこと。
高級お宿を取材、聞こえはいい。
イメージ的には、高級お宿に泊まって美味しい料理を食べて、温泉に入って。。。
そんな仕事もあるのかもしれない。
私の現実は、「予算がない」だった。
しかし、会社が受けてしまった仕事で担当になったのだからやるほかない。
やれるようにやるしかない。
まずは制作会社に相談。音声は要らない。
インタビューなども必要な気はするが、本企画は実験的なメディアミックス(なんだ?この言葉。。。)ということで、インタビューに該当するような要素はテキストで行うというモノだった。
よくわからないがとりあえずやらなければならない、と仕事を進めたが、この頃から「企画から関わりたいなぁ」と若かいながらも思いはじめた。(その後、企画に関わるようになると、あぁ、よくわからないことっていうのも必要なんだなぁ、と思うこと多発)

回し方の道筋

予算がないので、高級お宿に泊まって美味しい料理を食べて、、、、なんてことは不可能。
それぞれの都道府県・エリアで○軒取材する、というバランス的に望ましいノルマみたいなのが事前に決まっていた。
シミュレーションする。
北海道は飛行機を使わなければならないし広い、移動時間がかかる。
九州も飛行機を使わなければならないが7県あるのでバランス的に望ましいノルマ、数はこなせそう。
など、色々検討した結果、
北海道はどう考えても1泊2日で2軒、予算は行ってこい。
機材車で行ける関東近郊は、1泊2日で3軒取材。これで利益がそこそこ出るので、他の飛行機代に回す。
東北は、3泊4日で青森まで車で行っちゃう。帰りは飛行機。
などなどなど。
なんとか、予算内に収めるのはもちろん、自分の人件費含めても会社に利益が出る道筋が見えた。
制作会社、技術、さまざまな協力の末だ。チームというのはいいものだなぁと思う瞬間。

あとは実行あるのみ。。。とはいかないのが仕事なのかも

月に1度くらいロケに行く感じの仕事も終盤。
ディレクター、カメラマン、カメアシ、ほぼ同じメンツで気心も知れ、時間的にはタイトなものの、なんとなく楽しいルーティーンになっていた頃。
1軒目の宿、露天風呂の岩にお湯をかけていた時(岩を濡らすと光を反射するので綺麗に映る)、ケータイが鳴った。クライアントからだ。
「実は、次の放送予定のお宿なんですがトラブルが起きて放送できなくなりました」
3ヶ月前に取材したお宿だ。
「次に放送予定のお宿を前倒しで放送します」
「ということは1軒足りなくなるということですよね」
「そうなりますね」
1軒足りなくなる。1軒だけ取材するのは完全なる赤字になる。
「今、まさに取材中ですよね?その道中で1軒取材できませんか?」
「できないことはないと思いますが、お宿のアポ取りが難しいと思います」
「こちらでアタリつけたんですけど、○○というお宿はどうでしょう?メディアにも結構出てるみたいですし」
「。。。。今、まさに○○を取材中です。。。。」
クライアントには事前にロケスケを送っている。
ロケに出てるのを把握してるだけでもいい方だと思うが、クライアントや上司というものは、細かい現場のことなど見ていないことの方が多い。
細かく見ている場合は、「アソコでアレを買ってきて」「アソコの釣りたての魚を送って」など、ややこしい話になりがちだ。
さて、問題は1軒足りない話だ。

とりあえず相談だ

このロケのスケジュールは、午前中から1軒撮影し移動、夕方から1軒撮影し宿泊、次の日の朝残った撮影を終わらせ移動、午前中〜午後にかけて1軒撮影して終了、というモノだった。
2日目の午後に1軒ぶち込むしかない。。。ダメモトでトライしないと何もしないで「赤でました」なんて言えない。
ディレクター、カメラマン、カメアシに事情を説明する。
もしアポが取れたら2日目の午後から夜まで付き合って欲しいと。帰りは深夜になるだろうけれど。
気心知れた仲、快諾してくれた。
たぶん、アポなんか取れない、と思っていたのもあると思う。
高級お宿が今日の明日で取材に応じてくれることなんてほぼない。
そもそも高級お宿のリストがない。

アポというか、、、、

アポ取りを開始した。
とはいえ、高級お宿なんてそうそうない。
アタマに1軒だけお宿が浮かんだ。そこがダメならもうないだろう。
それは、このロケに出る前に取材を断られたお宿
一度、フラれた女性にもう一度告白するような手段一択。
なぜ、そんな手段に賭けたか。
そもそも、本企画のアポ取りは困難だった。
媒体は、立ち上がったばかりの衛星放送、メディアミックスというよくわからない企画性、一定の顧客を抱えている高級お宿にとって、視聴者層・ターゲットもよくわからないメディアに出る必要がないのだから。
にも関わらず、興味を持っていただいたが、支配人がお休み、ということで断られた1軒があった。
支配人がお休み、ということは、今日中に連絡をして取材OKの連絡をいただかなければならない。
支配人に電話する。
前回お願いした時も、しつこくお願いしたので覚えていてくれた。
当たり前のように難色を示した。
それでも、しつこくお願いする。正直に事情を説明する。
支配人も困ったのだろう。
ちょっと考えて連絡する、と言って会話は終わった。

諦めてからの

深夜、撮影が終わった。
支配人からの着信はない。
終わった。赤字だ。
ディレクター、カメラマン、カメアシにも伝え、しょうがないからちょっとだけ飲んだ。
すべてが順調な仕事なんてない。
翌朝、早朝の撮影を終え宿を出る時、着信があった。支配人だった。
「支配人、今日、お休みでは?」
「いやー、どうしても気になって。出てきちゃいました。取材受けても良いですよ」
もう1軒取材を終え、カメアシの運転するハイエースに乗った私たちは天城越えした。

戯れ言温泉,仕事

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