商売人の矜持

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この記事の所要時間: 330

ほぼ毎日自転車に乗る。
近所はもちろん、電車に乗るでも駅までは自転車だし、ほとんど時間を家で過ごす時は、小一時間は自転車で散歩をする。
今日は多摩川土手を、鶴見川土手を、自由が丘をぐるっと廻るといった具合に。

乗っているのは義父が30年前くらいに乗っていたというマウンテンバイクを譲り受け、譲り受けてからもかれこれ10数年経つ代物。7,8年前に右ハンドルについてるギアが落ち、修理しようとお店に行くも古過ぎてパーツがないと言われ断念。ギアチェンジはできないが、相当な坂道でない限り行けない事はないので乗り続けている。しんどい坂道もあるけれど。

パンクも2度3度のことではない。タイヤも磨耗し前輪後輪合わせて6回くらい取り替えた。そんなある日

「自転車、新しいのにするならペダルだけは返してね」

と義父。

義父から譲り受けたマウンテンバイク、という事実が、新しい自転車を買ってはいけないという空気を作っていたのかもしれない、と、ふと気づいた。
そして、新しい自転車に乗り替えても良いんだってことも。

とはいえ、数年乗っているとギアが変更できないのも当たり前になっているので、快適に利用してまた数年。

雨上がりの朝、駐輪場に行くと前輪がパンクしていた。
ハンドルのゴムも気づけばボロボロで、握る度に細かなゴムが削れて手に付着する。

よし、新しい自転車を買いに行こう。

そう思い立ち、自転車屋さんへ。店員さんに話かけた。

「相談があります」

この自転車はかなり年寄りである事、ギアチェンジも出来ない事、多摩川土手なんかを小一時間散歩する事など、諸々状況を説明した上で、新しい自転車を買った方が良いか?パンクの修理をした方が良いか?を相談した。

店員さんは
「商売的には、新しいのを買って貰った方が良いです。チェーンも伸びてますし、おっしゃる通りヴィンテージですし。でも、思い入れはないんですか?」
と。

思い入れがないと言えば嘘になるが、実際のところ、新しい自転車を買うつもりで自転車屋に来ている。

「思い入れはないです。でも、ペダルは残したい」
そう、ペダルは返さなければ。譲れないのはそれくらいのモノだ。

「まぁ、ペダルは外せば良いのでどうにでもなります」
と言い店員さんは店の奥に入って行った。

しばらく出て来ないので、店の奥に入ると店員さんが1台のクロスバイクを難しい顔して眺めていた。

別な自転車を指さし「この折りたたみは走ります?」と適当に話かけると、

「いきなりサイズが小さくなっちゃうと、今のよりも走らない感じがすると思います。そして、この店にはお客さんに合うようなサイズが無くて、僕にぴったりのサイズしかないんです」と自分より15cmくらい身長が低いであろう店員さんが困った顔で言う。

そういうものなのかなぁと色々話をしていると、

「うちの店はママチャリの種類には自信があるんですけど、クロスバイクやマウンテンバイクなどの種類が少なくて。ここら辺だと、○○とか△△とかで探した方が絶対に楽しいですよ」

と他のお店を勧めてくる。

「買っていただいても、乗ってしばらくして、”何か、こういう感じじゃない!”って思われたくないんで、納得できないものは売れませんよ」

商売的には新しいのを買って貰う方が良い、と言っていた店員さんに商売で大切な事を学んだ気分。

買い替えはとりあえずあきらめ、自転車は毎日乗るので、とりあえずはパンクの修理をお願いした。

「古いのでチューブもダメになってたりしたらタイヤ交換になっちゃいますけど、しないですよね? もし、そうなってたらそのママにしておきますね」

そりゃ、買い換えようと思っている自転車のタイヤ交換までしようとは思いません。客の気持ちを理解してくれる店員さんとのやり取りは気持ち良い。

結果、パンクの修理はでき、義父から譲り受けたマウンテンバイクをまたしばらく乗る日々が確定した。

今度また何か不具合が合った時は、またあの自転車屋に行くだろう。自分に合った自転車がないとわかっていても。